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雪国の屋根はなぜガルバ横葺きか——新潟の工務店が葺き方・勾配・軒の出を全部語る
最近、軒の出がほとんどない家をよく見かけます。すっきりした印象で、見た目も悪くありません。その理由も理解できます。ただ、新潟で軒の出を減らすことにはどんな理由があるのか、あるいはどんな影響が出るのか——そこから話を始めたいと思います。屋根材の選び方、葺き方と勾配の関係、軒の出の意味。それぞれに理由があります。特集全体の概要はこちらの記事にまとめています。
月刊アーキテクトビルダー2025年12月号掲載|この章の概要

2025年12月号の特集「ザ・アーキテクトビルダーの設計術」では、屋根の章として、垂木の構成と固定方法、葺き方と勾配の判断基準、けらばの納まりを取り上げていただきました。取材を通じて伝えたかったのは、多雪地ならではの制約が屋根の設計判断をどう左右しているか、という話です。
スレートも瓦も選ばない——新潟の屋根でガルバリウム鋼板を使い続ける根拠
重量と勾配、そして積雪——スレートと陶器瓦を使わない理由
山口工務店の屋根材は、ガルバリウム鋼板(錆びにくい金属の屋根材)が標準です。スレート(薄い石質の板状屋根材)や陶器瓦を採用しないのには、理由があります。

まず重量。陶器瓦は1㎡あたり40〜50kg程度になります。耐久性は高く、素材としてはとてもよいのですが、これに積雪荷重が加わると屋根面にかかる力は相当なものです。構造計算で見込めば対応できますが、躯体を太くしたり壁の量を増やしたりなどの対応が伴い、地震時の揺れには不利に働きます。陶器瓦はガルバリウム鋼板の10倍以上の重量があります。
次に勾配の問題です。スレートは一般的に3寸勾配以上、陶器瓦で4寸以上が施工条件とされ、緩勾配を取りたい計画では選択肢に入りにくくなります。多雪地では落雪対策や軒先の納まりも同時に詰める必要があるため、勾配の選択肢が広いほど設計の自由度が高まります。
ガルバリウム鋼板は軽量で、3.5寸から対応できる横葺き、1〜1.5寸勾配まで対応できる立てはぜ葺きと、勾配の選択肢が広い。多雪地での設計の自由度という点で、他の屋根材とは差があります。
アスファルトシングルが候補に入らない理由
アスファルトシングル(アスファルトを染み込ませたガラス繊維シートの屋根材)は、軽量で、仕様条件を満たせば低勾配にも対応できる素材です。北米では広く使われていますが、気候や施工条件によって耐久性の評価は分かれます。
ただ、新潟の気候では積雪と融雪の繰り返しによる凍結融解サイクルが屋根材にかかります。アスファルトシングルは凍結融解への耐久性でガルバリウム鋼板に劣るという評価が一般的で、10〜15年での劣化が早い事例も報告されています。長く使う家の屋根材としては、積極的に選ぶ理由がありません。
横葺きか立てはぜか——葺き方の使い分けと、それが決まる条件
横葺きを標準にする理由は「雪止めの見え方」だけではない
当社では、屋根は基本的にガルバリウム鋼板の横葺きをメインにしています。横葺きの勾配下限は3.5寸としており、それより緩い勾配など横葺きが施工できない場合は、縦葺き(立てはぜ葺き)を採用しています。
横葺きを標準にする理由はいくつかあります。まず外観。積雪地では雪止め金具が必須で、種類はいくつかありますが、コスト面を含めるとL型アングルを使うのが一般的です。当社でも雪止めはアングルを基本にしていますが、縦葺き(立てはぜ)の場合は縦方向の葺き目と雪止めアングルが直交するため、意匠的に雪止めが目立ちやすくなります。

横葺きであれば、葺き目の水平線と雪止めアングルの線が同じ向きにそろい、見た目がまとまります。

もう一つは軒先のディテールで、横葺きは凹凸のないフラットな納まりになる一方、立平葺き(立てはぜ葺き)はハゼの凹凸が軒先に見えるため、当社では横葺きを採用しています。



立てはぜに切り替えるのはいつか——母屋3.5寸・下屋2寸という組み合わせが生まれるまで
立てはぜ葺き(屋根材を縦方向に葺き、継ぎ目を立ち上げてはぜ折りする工法)は、1〜1.5寸程度の緩勾配にも対応できます。当社では下屋などで緩勾配にしたい場合に採用する例が多いです。

下屋付きの2階建てでは、外観のバランスを取ろうとすると、母屋より下屋の勾配が緩くなりやすい。母屋が3.5寸程度であれば、下屋は1.5〜2寸程度になることが多いです。外観上のバランスについては外観の記事で詳しく書いていますが、この勾配の差が葺き方の使い分けを自然に決めます。母屋は横葺き、下屋は立てはぜ——という組み合わせは、デザイン面に加えて、屋根の葺き方そのものから決まる防水上の理由で判断しています。
勾配に関してもう一つ注意していること。下屋が取り付く面に母屋の窓がある場合、下屋屋根の上端が窓の直下に食い込む形になると、外観のバランスが崩れます。勾配を緩めることで外観上のバランスを取るケースもあります。勾配の数字だけで決まらないのが、屋根設計の実際です。
910mmの軒を出す——構造と機能、両面からの理由
軒は「外壁を守る傘」——軒の出ゼロが抱えるリスクと当社の判断基準
軒の出がなければ、雨は直接外壁に当たる。外壁の傷み(劣化)は、軒の出の長さに正直に比例する。
山口工務店では軒の出910mmを標準としています。近年、軒の出をなくした、あるいは極端に短くしたデザインの住宅が増えています。見た目はすっきりする。ただ、それが外壁と家の耐久性にどう影響するかは、10年後に答えが出ます。

軒の役割は、雨水を外壁から遠ざけることです。軒の出が910mmあると、小雨程度では雨が外壁に当たりにくくなります。外壁が雨に濡れる頻度が減れば、素材の劣化速度が落ちます。ガルバリウム鋼板であれ、左官仕上げであれ、木板張りであれ、この原則は変わりません。また、地面付近の基礎や外壁への雨水の跳ね返りを抑える効果も忘れてはなりません。
当社でも、軒の出を短くする、あるいはゼロに近づけるデザインを採用することがあります。建て主さんの意向と敷地条件によっては、それが最善の選択になることもあります。ただその場合は、外壁素材の選定や防水仕様をしっかり検討して作り込むことで、性能を担保するようにしています。軒の出ゼロはデザインの選択肢のひとつですが、デメリットも伴います。 そのトレードオフを建て主さんと共有した上で決めています。
ベイマツ105×45mm+高耐力ビス——この寸法と固定方法の根拠
軒の出910mmを出すためには、垂木(屋根の下地材として棟から軒先に向かって並ぶ木材)に十分な断面と、確実な固定が必要です。
当社の屋根垂木はベイマツ(米松)105×45mm。一般的な垂木が45×60mm程度であることと比べると、断面積でおよそ2倍近くあります。多雪地で軒の出を大きくとるには、垂木が積雪荷重と自重の両方を受け持てるだけの断面が必要です。この寸法は、住宅ごとの構造計算でたわみ量(積雪時に軒先が何mmたわむか等)も具体的に確認しながら設計を進めています。


垂木の固定には現在は長さ180mmのBX高耐力垂木ビスを使い、桁・母屋に直接固定しています。このビスは屋根倍率(屋根面の水平方向の剛性)など、屋根の水平力を計算する根拠が明確です。通常の釘打ちと比べると、屋根面としての強さが大きくなります。地震時に建物が大きく変形しようとする場面では、強い屋根面があることで、段ボール箱の上面をしっかり閉じたときのように、建物の変形を抑える脇役になります。
高断熱化の落とし穴——断熱材300mm超で通気層がふさがる問題
近年、天井断熱の充填量を増やす高断熱仕様の需要が高まっています。断熱材を厚くすること自体は正しい方向ですが、厚くなるほど天井付近での垂木間の通気層を埋めてしまうリスクが生じます。特にブローイング(断熱材を機械で吹き込んで充填する工法)で断熱材の厚さが300mmを超えると、垂木間に断熱材で掛かり始め、壁から小屋裏へ抜ける空気の通り道がなくなります。当社ではブローイング厚さ400mmを標準としているため、通気スペーサーは必須の部材です。
通気層が塞がると、換気不良によって屋根面の結露リスクが上がるほか、上昇した小屋裏の熱が輻射熱となって室内へ過剰に流入しやすくなります。



対処方法として当社では、通気スペーサーを垂木に設置します。天井断熱を施工する前にブローイングの流れ止めとなるよう、スペーサーを垂木面に設置することで、断熱材が通気層を塞ぐのを防ぎます。断熱性能を上げながら通気を確保する——この両立は、断熱材の厚みが増すほど意識し、現場のその場で気づく前に設計段階で計画的に対応する必要があります。
この章固有のQ&A
Q1. ガルバリウム鋼板の屋根、20年後に何をすれば長持ちしますか?
ガルバリウム鋼板の塗膜は、製品や環境によって差はありますが、概ね15〜20年で色あせや塗膜の劣化が始まります。そのタイミングで再塗装を行うことが、鋼板本体を守る基本的なメンテナンスです。塗膜が剥がれて素地が露出した状態で放置すると、錆びが進行し、最終的には板金ごとの交換もしくは、上から新しい屋根材を重ねるカバー工法で対応する方法になります。
慎重を尽くすなら再塗装がベストですが、現実には塗膜が劣化してもすぐにガルバに孔があくわけではありません。素地のガルバリウム鋼板そのものの強靭さは変わらないため、長期目線で再塗装を意識しつつ、メンテフリーに近い感覚で安心して使っていただける素材です。
Q2. 雪止め金具はいつ取り替えを考えるべきですか?
雪止め金具はスチール製が多く、溶融亜鉛メッキ(所謂、どぶ漬けメッキ)によって保護されています。概ね15〜20年で特に切断面や取付け部の塗膜が劣化し、錆びが目立ち始めます。雪止め金具が腐食すると、屋根材への固定部分から錆び汁が流れ、外観を汚すだけでなく、固定力が落ちて金具ごと外れるリスクが生じます。屋根の再塗装に合わせて雪止め金具の状態も確認し、腐食が進んでいれば交換するのが現実的なタイミングです。交換は屋根全体のメンテナンス工事と同時に行うと、足場費用をまとめられます。
屋根の選択が、家の寿命を決める
屋根は、家を外から守るための最初の防衛線です。素材・葺き方・勾配・軒の出——それぞれの判断が積み重なって、10年後・20年後の家の状態に直結します。新潟という多雪・多雨の環境で長く住む家を考えるとき、屋根の設計は「見た目」と「耐久性・機能」の両立を意識するのが当社のスタンスです。
外壁との素材の取り合いや納まりの話は、外壁の詳細記事(近日公開)で続きを書いています。
実際の屋根の仕様や、家づくりの考え方について気になることがあれば、お気軽にご相談ください。見学できる事例もありますので、お声がけいただければと思います。
